シャーロック・ホームズの追悼 座談会『特別編/難易度選択について』

シャーロック・ホームズの追悼 座談会

◇前編/プレイデータのこと
◇後編/いただいたご感想のこと
◆特別編/難易度選択について(このページ)

特別編/難易度選択について

竹内
本作「シャーロック・ホームズの追悼」は、ゲームをある程度進めていただくと、難易度を選択していただくシーンが現れます。4段階——「ノーマル」「ハード」「ベリーハード」「エクストリーム」から、ひとつをお選びいただいて、残りのゲームをプレイする形です。

河野
はい。冒頭で難易度の選択があっても、どれを選んでいいかわからない——判断基準がないだろう、ということで、中盤で選択肢がある形にしています。

清木
それまでの難易度は、本作では「ノーマル」に当たります。ですがより難しい謎解きをしたい方は、難易度を上げられるわけですね。

竹内
最適な難易度を選んでいただけると、本作をより深くお楽しみいただけると思います。ですが、やっぱり自分で難易度を選ぶのは、少し難しいですよね。「ハードとベリーハードはなにが違うの?」ということになってしまいます。

河野
はい。ですから、難易度について「舞台裏」をお話することで、これからプレイする方の指針になると嬉しいなと考えています。

清木
ネタバレにならない範囲ではありますが、本作の難易度がどういった意図で設定されているのかに踏み込む内容ですので、他の謎解きゲーム制作者の方にもご興味を持っていただけるかもしれませんね。

竹内
いきなりですが、本作はもともと、ふたつの難易度しか想定されていなかったんですよね?

河野
はい。ずいぶん調整をしましたので、実情は違うのですが、だいたい現在の「ハード」と「エクストリーム」しかありませんでした。現在のハードが「ノーマル」、エクストリームが「ハード」と呼ばれていたわけです。

清木
ですが、少し難し過ぎました(笑)。

竹内
解ける人にはそれで良いんだけど、詰まってしまうとなかなか先に進まない、という印象でしたね。真夜中まで及ぶ、ずいぶん長いテストプレイを何度もみてきました。

河野
そこで、まずは「ノーマル」の難易度の引き下げが行われました。ゲーム全体でどの謎も、テストプレイの結果「ひっかかりやすいところを潰し、程よい誘導になる手がかりを加える」という作業を行うのですが、ノーマルモードはこの修正を丁寧に当てています。

清木
そこでノーマルモードが、「謎解きゲーム初心者にもおすすめできる、快適に遊んでいただける程度の難易度」に落ち着いたんですよね。一方、もともとのノーマル——現在の「ハード」くらいが最適な難易度だ、と感じてくださる方も、テストプレイ中には大勢いました。

竹内
ノーマルモードの難易度を下げたぶん、高難易度のモードとの差が大きくなりすぎた、というのもあります。

河野
そこで、「もともとのノーマル」程度の難易度のモードを、「ハード」として残すことにしたんですよね。その時点で、「もともとのハード」は、「エクストリーム」になりました。

清木
たいてい、謎解きゲームは作成直後、難しく作りすぎているものですが、本作の場合はそれがおおよそ「ハード」程度であろう、という感触だったわけです。

河野
そこから、「エクストリーム」の調整に入るんですよね。調整というか、確認というか。

竹内
まさしく、「人類にこの謎は解けるのか?」を確認する、という気持ちでした(笑)。

清木
エクストリームに関しては、難易度を下げるつもりはなかったので、「すごく謎解きが得意な人が解けるならそれでいい」という気持ちでしたね。

河野
そして、見事に解けました。

竹内
こちらが狙い撃ちにして、「この人は謎解きが得意だから解けるはずだ」と考えてエクストリームのテストプレイをお願いした方は、全員がこのモードでクリアしています。

清木
よってエクストリームの正当性が証明されたわけですが、「もう少し謎解きにガイドがあった方が気持ちが良いかもしれない」というご意見も、いくつかあったんですよね。

河野
はい。謎解きが得意な方は、エクストリームでも解けるけれど、それが常に最適な面白さとは限らない、という感触でした。謎解きに高難易度を求めている方にはご満足いただけるけれど、もう少し別の要素——たとえば、謎とストーリーとの繋がりなどの体験を主眼にプレイされた方には、「本作における謎は、もう少しマイルドでも良いのかもしれない」と感じられたように思います。

清木
そこで、急遽「ベリーハード」という4つ目のモードが登場することになりました。

河野
なので、ベリーハードの設計意図は明白で、「とても謎解きが得意な人が、エクストリームモードをプレイし、最低限欲しいと感じたガイドを組み込む」です。

竹内
ですからベリーハードは、「調整をした中では、もっとも難易度が高いモード」という感じですね。

河野
はい。対してエクストリームは、そもそも調整という概念がないモードです(笑)。だからゲームの制作者としては、あまりおすすめしていません。

清木
エクストリームのテストプレイに選ばれた、謎解きファンのひとりが実は私の奥さんなんです。ソロで「エクストリーム」という無茶ぶりをしたのですが、奥さんは物語重視派なので、クリア後に「ベリーハード」くらいでストーリーと合わせて楽しみたかったなー、と苦情をいただきました(笑)。

河野
わかります(笑)。ですが、「エクストリームこそもっとも本作を楽しめる難易度だ!」と言ってくださる方もいらっしゃいますよね。

竹内
ゲーム中の選択肢では、かなり執拗に「難しいからやめておけ」と警告されるのですが(笑)。

河野
ゲーム中に表示されるテキストは、どちらかといえば低難易度に誘導するようにできています。また、これは少しアンフェアな気がして最後まで葛藤があったのですが、「高難易度モードを選んでも、後からより簡単なモードに変更できる」というシステム上のテキストが、難易度を選択した後にしか表示されない形になっています。

竹内
それは、プレイヤーとしては難易度選択の前に知っておきたい情報のように思えますね。選択後にしかわからないのは、どうしてでしょう?

河野
これは私のゲーム作りの思想に直結していて、「ゲームには良いストレスと悪いストレスがあり、悪いストレスは極力排除しなければならない」と考えているからです。事前にあとから低難易度に切り替えられることがわかっていると、「まずは高難易度を選び、難し過ぎたら低難易度に変更しよう」と考える方が、大勢いらっしゃることが想像できます。

清木
それが自然な考えのように思いますね。

河野
本作がソロでプレイするゲームであれば、それで良いと思います。ですが、複数人でプレイすることを想定したゲームですので、その場合「難易度の切り替え」というのが、悪いストレスになることが予想できます。もちろん常に悪いわけではないのですが、場合によってはプレイヤーごとに、「難易度を下げたいタイミング」に差異が生まれますから。

清木
ああ。つまりプレイヤーAさんは「もう充分に悩み込んだから難易度を下げたい」と考えていて、Bさんは「まだまだこのまま頑張りたい」と考えている、ということが起こり得るんですね。

河野
はい。これはヒント機能も抱えている問題で、完璧に解消する方法は、私にはわからないのですが、ともかく「発生しない方が良いジレンマ」ではあります。場合によっては、隣のプレイヤーに対して不満が生まれてしまう種類のジレンマですから。

竹内
純粋に謎解きで頭を悩ませるのは良いストレス、一方で難易度変更などシステム的な部分でプレイヤー間で意見の対決が起こるのは悪いストレス、と河野さんは考えているわけですね。

河野
その通りです。ですから本作のメッセージでは、低難易度を推奨しています。低難易度でも充分にお楽しみいただける自信がありますし、もし「ちょっと簡単すぎたな。もっと難易度が高いモードを選べばよかったな」という不満が生まれたとしても、それはプレイヤー間で意見が対立するのに比べればずいぶんましな不満である、というのが私の考えです。

清木
ですがもちろん、「まずは高難易度を選び、難し過ぎたら低難易度に変更しよう」というプレイスタイルがもっとも気持ち良い方もいらっしゃるわけですよね。

河野
はい。ですからゲーム中ではなく、こういったしっかり設計の意図をご説明できる場面であれば、「高難易度を選んでもあとから低難易度に変更可能ですよ」とお伝えしても良いと考えています。

竹内
しっかりとこちらの考えをご理解いただいた上で、それでも難易度の高い謎を解きたいという方は、ぜひご挑戦ください、という感じですね。

河野
さて、この記事では、それぞれの難易度が「どういったプレイヤーの方におすすめなのか?」ということをお伝えできれば嬉しいのですが——。

竹内
本当に、人によって様々なので、なかなか難しいですよね。

河野
謎解きゲームはどうしてもこれまでの経験や知識の蓄積が影響する遊びで、さらに「謎が求めるひらめきやパズル性との相性」もありますから。私はどちらかというと、前作「アリスと謎とくらやみの物語」よりも今作「シャーロック・ホームズの追悼」の方が難易度が高いと考えているのですが、「アリスの方が難しい」と感じる方もいらっしゃるようです。

清木
「アリス」の謎は、謎解きの上級者にも驚いていただけるものになっています。しかし、「ホームズ」においての「ベリーハード」や「エクストリーム」に相当する高難易度のモードはご用意していません。ですから、難しい謎を解くのが好きな方には、やや手がかりが丁寧に提示されすぎる印象があるかもしれませんね。

竹内
その代わり、「アリス」にはクリア後に気づいた方だけがチャレンジできる、ささやかな「エクストラ謎」をご用意しています。

河野
あれをノーヒントで気づくのは、かなりの高難易度ですよね。ちなみに「ホームズ」に、エクストラ謎はありません。本編のボリュームがかなりのものなので(笑)。

清木
話をホームズの難易度選択に戻しますと、「あまり謎解きに慣れていない」という方におすすめなのは、やはり「ノーマル」だと思います。ただし、難易度選択までの謎解きがあまりにスムーズで、「もっともっと難しい謎を」と感じていた方は、「ハード」をお選びいただけると良いかと思います。

河野
実は「ノーマル」と「ハード」では、それほど大きく手がかりの内容が変わるわけではありません。どちらかというと、ノーマルモードには「ここで、どの手がかりを使うべきなのか?」というガイドがあり、ハードモードからはそのガイドがなくなっている、という感じです。

清木
「今、どの手がかりが重要なのか?」は、謎を解く上で非常に重要な視点ですからね。

河野
はい。反対にいえば、そこの情報の整理というか、「手に入れている情報に対する広い視野」をお持ちでしたら、ハードモードでもお楽しみいただけるかと思います。

竹内
対して「ベリーハード」以上は、充分に謎解きの経験がある方に向けたモードですね。

清木
一番違いが分かりにくいのは「ハード」と「ベリーハード」ですが、謎を解くために手に入る手がかりの量がかなり違います。「ベリーハード」はより少ない手がかりで謎を解くことになりますが、謎解きのパターンをある程度ご存じの方であれば楽しんでいただけるはずです。

河野
反面で謎解きのパターンを知らなければ、「どれほど考えても思いつかない!」ということも起こり得ますよね。ですから「ハード」と「ベリーハード」のあいだには、経験の有無が重要になる壁があるように思います。

竹内
最後に「エクストリーム」ですが、いかがですか?

河野
あれはもう、私としては、「充分に選ぶのを止めたから、それでも選ぶなら自己責任で」という感じです(笑)。

清木
難易度選択時に、ゲームの進行役から「おすすめしません」と明言される難易度ですからね。一方で、もしも私が記憶を消してこのゲームを遊べるなら、ぜひエクストリームを選びたいと思います。「エクストリーム」は、「謎解きの美しさ」に特化したモードですよね。

河野
本作の、ロジカルな構造の部分はもっとも強くご体験いただけるかもしれませんね。ですが物語体験としては、非常に孤独というか、「とても物静かな物語」になってしまいますね。純粋に、ゲーム側から出てくる情報がぐっと減りますから。

竹内
エクストリームに関しては、謎解きの経験に加えて、「解けない時間のストレス」への耐性がどの程度あるのかがポイントかなと思います。じっくり長時間、考え込むのが得意な方は、エクストリームに向いているのではないでしょうか。

河野
とはいえ、もともと「ベリーバード」が、「エクストリームを解ける人たちが、最適だと考える最低限のガイドを組み込んだ難易度」ですからね。なので基本的には、「ベリーハード」をお選びいただくのが良いように思います。

竹内
まとめますと、制作側としては、低難易度を推奨しているということでよろしいでしょうか?

河野
そうですね。こちらは低難易度を推奨しますので、それでも挑戦したい方はご自由に、という形です。

座談会特別編「難易度選択について」は以上です。

記事内の通り、難易度選択はプレイヤーによって最適なものが様々で、一概に「これを選べばよい」と言えるものではありません。
これから「シャーロック・ホームズの追悼」をプレイされる方は、もしお知り合いに本作プレイ済みの方がいらっしゃいましたら、ぜひ「どの難易度が良いと思う?」とお尋ねください。あなたのことをよく知る方でしたら、私共よりもずっと適切なアドバイスが可能だろうと思います。

それでは、あなたの謎解き体験が、素晴らしいものになることを願っております。