座談会『1.ESCALOGUEと自己紹介』

はじめに

こんにちは。制作スタッフの河野裕と申します。

今年9月に『ESCALOGUE アリスと謎とくらやみの物語』というボードゲームが発売されます。
本作は、ルールの説明がほとんどいらないくらい、非常にシンプルなゲームなのですが、一方で一般的に「ボードゲーム」と聞いてイメージする遊びとは、少し内容が違っています。
その魅力をできるだけ誤解なく伝えるために――加えて、私自身が「それぞれのスタッフが、どんなことを考えてこの作品を作っていたのだろう?」ということを知っておきたかったのもあり、制作者の座談会を開きました。

参加したのは、竹内さん、パズ.rarさん、清木さんと私の4人です。
それぞれの役割については、この記事の中でご説明いたします。

少し長くなりますが、お付き合いいただけましたら幸いです。

1.ESCALOGUEと自己紹介

河野
普通、こういった記事ではまず自己紹介から入ると思うのですが、この作品の場合、そうすると少し混乱を生みそうなので――

竹内
一般的なボードゲームには、まず存在しない役割のスタッフばかりですからね(笑)。

河野
はい(笑)。
なので今回は、ゲーム内容の紹介から入りたいと思います。
お願いできますか?

竹内
わかりました。
本作は『ESCALOGUE アリスと謎とくらやみの物語』という、たいへん長いタイトルなのですが、この言葉をひとつずつ説明していくと、だいたいのイメージを掴んでいただけるかと思います。

清木
まず、ESCALOGUEというのは、「ESCAPE(脱出)」と、「DIALOGUE(対話)」という言葉を組み合わせた造語です。

河野
このゲームを上手く言い表せる言葉がなかったので、みんなで考えたんですよね。

パズ.rar
第一にエスケープ。
なによりも脱出ゲームである、というのが、ESCALOGUEのアイデンティティです。

河野
脱出ゲームという言葉は、もうずいぶんメジャーだと思いますが、一方でしっかりとした意味が少しわかりにくい言葉でもありますよね。

竹内
河野さんは、どんなところが「わかりにくい」と感じているのでしょう?

河野
脱出ゲームはまず、webで遊ぶゲームとして生まれた、という認識です。それをSCRAPさんが、「リアル脱出ゲーム」という名前で体験型イベントとしてまとめ上げた。
でも従来のwebゲームとしての「脱出ゲーム」と、「リアル脱出ゲーム」を初めととした体験型イベントでは、面白みの本質がずいぶん違うのではないでしょうか?
なので人によって、「脱出ゲーム」という言葉のイメージに、ばらつきがあるように感じます。

清木
その通りです。
でも、そこを詳しく説明し始めると、ずいぶん長くなってしまうので――

竹内
おおまかな流れだけ、ご説明しましょう。
体験型脱出ゲームに詳しい方には「説明が足りないよ」と言われてしまうかもしれませんが、ご了承ください。
まず、webで生まれた脱出ゲームは、言ってみれば「探索のゲーム」でした。
部屋の中に閉じ込められて、とにかく脱出しないといけない。だからその部屋にあるものを片っ端から調べていって、手に入ったアイテムで試行錯誤する。
ロジカルな思考より、根気強さと想像力が必要なゲームでした。

清木
実は初期の「リアル脱出ゲーム」――体験型の脱出ゲームも、その特徴を色濃く残していました。
あるところからはバッテリーが抜かれたカメラがみつかる。別の場所からバッテリーがみつかる。それが組み合わさるのが気持ちいい、という流れを、実際に体験するような遊びでした。
この「リアル脱出ゲーム」が、非常に人気になったんです。私は最初期からのファンのひとりとして、それが非常に嬉しかったのですが、人気になったからこそ生まれた問題もあります。
つまり1度のイベントで、大勢のプレイヤーを相手にしなければいけなくなったんです。

河野
なるほど。
大勢の人たちを相手にすると、「探索ゲーム」では成立しなくなったんですね。

竹内
はい。重要なアイテムがすぐにみつかってしまうし――

河野
学校1クラスぶんくらいの人数なら、みんなで「バッテリーがみつかった!」と盛り上がれても、それが何百人という数になると、離れている人はなにが起こっているかわからない。
部外者のような気分になってしまうでしょうね。

竹内
なので大規模な体験型脱出ゲームは、チーム戦という形になっていきます。たとえば6人をひとつのチームとして、チームメンバー以外の人間は「いないものとして」ゲームを進めるわけです。
これによって、「すべてのチームが、それなりに平等に楽しめるコンテンツ」に変化する必要が生まれました。

河野
そこで、「謎解き」に純化していくわけですね。

竹内
その通りです。
謎を解く、という体験は、チーム戦に非常にマッチしています。
隣のチームが歓声を上げていると、部外者のように感じるどころか、モチベーションに繋がりますから(笑)。

河野
「私たちも負けていられない。頑張って謎を解こう!」と思えるわけですね。

清木
謎が重要になると、「謎のクオリティ」が求められるようになります。
フェアな謎でなければいけない、難易度もしっかりしていなければいけない、驚きがあり、かつ、答えを聞いたときに納得感のある謎でなければいけない、という風に。

竹内
より少人数で楽しむ、探索の面白さを残した体験型イベントも、今も作られています。でも大人数のイベントが謎の質を引き上げて、日本のプレイヤーはそれに慣れてしまったので――

河野
生半可な謎では、満足できなくなってしまった(笑)。

竹内
はい(笑)。
「探索ゲーム」としての面白さを扱った公演で出題される謎も、やはり高レベルなものが出ていると感じます。

河野
そうやって今の、「体験型脱出ゲームといえば、謎解きである」というイメージができていったわけですね。よくわかりました。

竹内
けっきょく、説明が長くなってしまいましたね、笑。

河野
そこで、この企画でいうところの「脱出ゲーム」ですが――

竹内
ESCALOGUEの「エスケープ」部分は、「高品質な謎を解くことを楽しむゲームである」とお考えいただいて間違いありません。

パズ.rar
謎の品質には自信があります。
あまり謎解きに慣れていない人は「難しい」と感じるかもしれませんが、でも諦めなければ解けます。ご安心ください。

河野
それは間違いないと思います。テストプレイでも、非常に好評でしたから。
テストプレイヤーが「難しすぎない?」と言いながら、けっきょくヒントを一度も使わずクリアしてしまったり。本当に嬉しそうでした。

パズ.rar
こっちまで嬉しくなる光景ですね(笑)。

河野
まったくです。
テストプレイでは、私たちはただ様子を観察しているだけなんですが、すごく楽しかったですね。なぜかプレイヤーと同じように、ゲームが終わるとどっぷりつかれてしまったり。

清木
一方で、何百回と脱出ゲームに参加しているような、「すごく謎解きが得意」な一部の人は――

パズ.rar
そうですね。正直なところ、謎の難易度は少し物足りなく感じるかもしれません。
でもそんな人にも、「この作品はぜひプレイして欲しい」と自信を持って紹介できるものになっています。

竹内
謎解きの手がかりを厚めに出すバランスに調整しましたからね。でもすぐに解けたとしても、謎のアイデアには感心していただけるはずです。
それに加えて本作には、謎解き系のゲームをたくさんプレイした人ほど感じる、大きな驚きがもうひとつあるのではないかと思っています。

清木
同感です。それが、ESCALOGUEの後ろ半分ですね。
脱出ゲームだけではなくて、DIALOGUE――「対話」の物語でもある、という部分。
謎と物語が非常に密接に繋がっている、という点が、本作の大きな特徴です。

竹内
とくに謎解きゲームの作り手側の経験がある人には、「この作品の謎と物語は別々の人間が作っているんだよ」と言っても、ちょっと信じられないようです(笑)。
あるテストプレイヤーは、「どうやったらこれが作れるのかわからない」としきりに首を傾げていました。

河野
その「物語」の部分ですが、「ストーリー」ではなく、あくまで「ダイアログ」――対話、としたところがポイントかな、と思います。

竹内
そこは、ぜひお伝えしなければいけませんね。
本作では、プレイヤーの皆さんに、アリスとLINEで「友だち」になっていただきます。

河野
LINEを使う、というのは、他のボードゲームではあまり聞いたことがないですよね。
アナログゲームでデジタルを使うことに、個人的には多少の葛藤があったのですが――

清木
でも、LINEを使うことのメリットが、たくさんありますから(笑)。

河野
はい。総合的にみて、得られるものが非常に多くて魅力的なので、LINEを使うことに決めました。

竹内
プレイヤーの皆さんは、LINEを使ってアリスと連絡を取りあい、「くらやみの国」に迷い込んでしまった彼女を脱出できるよう導いていく。
アリスと対話しながら謎を解き明かす、というのが、本作の構造になっています。

河野
アリスというのは、あのアリスです。

竹内
不思議の国で有名な。
世界でいちばん有名なヒロインと言っても過言ではないアリスですね。

河野
実際にプレイヤーは、LINEでアリスと話をするんですよね。

清木
その通りです。あなたが送ったメッセージに対して、アリスからの返事が届きます。
なんでも自由に会話できるわけではなくて、使い方はあくまで「くらやみの国の探索」に限定されていますが……。

竹内
でも、「アリスがそこにいる感じ」が、非常に強くでていると思います。
テストプレイでも、「アリスと一緒に謎を解き切った」と大勢の方に共感していただきました。

パズ.rar
「アリスと別れるのがつらい。クリアしたくない」というくらい、感情移入してくださった方もいました(笑)。

竹内
謎解きゲームで「クリアしたくない」というのは、まず聞かない感想ですよね(笑)。

河野
アリスの応答は、テキストではいちばん気を使ったところなんです。
ここまで返事を用意しているの? と思っていただけるところまで作りたかったし、なによりアリスの人物像を、王道的に描きたかったので。
ルイス・キャロルがアリスをどんな少女だと捉えていたのか、できるだけ具体的にイメージして書きました。

竹内
ゲームの内容をまとめると。
プレイヤーにはLINEでアリスに指示を出し、彼女に「くらやみの国」をくまなく調べさせて、現れた謎を解き明かしていただきます。もちろんその途中で、チェシャ猫や白うさぎといった、有名なキャラクターたちに出会うことになります。

河野
本作の謎というのは、たいていアリスが出会うキャラクターたちの悩みなんです。
それで、謎を解くとお礼にロウソクをもらえて、くらやみの国に少しずつ光が灯っていきます。
アリスは初め、ほんの少しの範囲しか捜索できないのですが、ロウソクを手に入れることで、少しずつ調べられる範囲が増えていきます。

清木
と、ここまでゲームの内容をご紹介したところで――

河野
ようやく、自己紹介に入りましょう(笑)。
私、河野は、LINEで次々に公開されていくストーリーに加え、企画全体の方向性や、細々としたルールを決める役割を担当しました。

パズ.rar
パズ.rarです。
本作の謎制作全般を担当いたしました。

清木
清木です。
このゲームの、LINE対応で使われているプログラムを提供しています。
元々個人的に作っていて、今はフリーで公開しているプログラムがありまして、それをこの企画に無償でご提供している形です。

河野
補足すると、清木さんは謎解きゲームへの造詣も非常に深いので、様々な面でアドバイスをいただいています。

竹内
竹内です。
ラ・シタデールという、謎解きをはじめとした各種体験型イベントの制作会社の代表をしています。
河野さんが所属しているグループSNEは神戸の会社ですので、東京側のスタッフをまとめるのが主な役割でした。

河野
グループSNEと、竹内さんのラ・シタデールで本作を作っています。
パズ.rarさんをご紹介いただいたのも、竹内さんからですね。もうずいぶん前の話ですが。

竹内
はい。
非常に優秀な謎制作者がいる、と。

清木
さらにパズ.rarさんは、謎の物語性を大事にする謎制作者でもあるんです。物語の設定に合わせた謎を見事に作ってくださるので、この企画とは非常に相性がいいのではないかと思います。

河野
ぜひ本作をプレイして、パズ.rarさんがいかに優秀か、そして物語との相性がよい謎を作ってくださったのかを、ご体感いただければと思います。

以上で、座談会の第1回はおしまいです。
なおこの座談会は、全4回になる予定です。
どんな成り立ちでこのゲームが作られたのか、なににこだわったのか、そしてそれぞれのスタッフの本作に対する思いをできるだけ丁寧にお伝えできればと考えておりますので、よろしくお願い申し上げます。

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