シャーロック・ホームズの追悼 座談会『前編/プレイデータのこと』

座談会のまえがき

こんにちは。制作スタッフの河野裕と申します。

2020年11月に発売された、謎解きボードゲームESCALOGUE(エスカローグ)シリーズの第2作「シャーロック・ホームズの追悼」を多くの方に遊んでいただき、誠にありがとうございます。

実のところ、本作は今年(2021年)の初頭から、ずいぶん長いあいだ品薄の状況が続いておりました。早い段階で追加生産は決定していたのですが、印刷所を国内から海外に移していたためCOVID-19の影響を受け、印刷および運搬に、非常に多くの時間がかかってしまった、という背景です。「本作を遊びたい!」と感じてくださった方にご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません。

ようやく追加生産したものが到着し、安心してお買い求めいただける状況になりましたので、この機会にスタッフで座談会をすることにいたしました。

本作「シャーロック・ホームズの追悼」の、クリア後アンケートのデータを元にしてあれこれとお話することで、「本作がどういった受け入れられ方をしているのか?」「どういった方におすすめできるのか?」ということをお伝えしたいと考えています。

お付き合いいただけましたら幸いです。

シャーロック・ホームズの追悼 座談会

◆前編/プレイデータのこと(このページ)
◇後編/いただいたご感想のこと
◇特別編/難易度選択について

前編/プレイデータのこと

河野
まずは、自己紹介からはじめたいと思います。本作のディレクションとストーリーを担当している河野です。よろしくお願いいたします。

竹内
制作協力でクレジットされている合同会社ラ・シタデールの代表をしている竹内です。謎の問題制作とLINEシステムまわりの提供をしている東京側スタッフの取りまとめをして、神戸にいる河野先生やグループSNEのみなさまとやりとりしていました。よろしくお願いいたします。

清木
本作にLINEの応答システムを提供している清木です。無償で公開しているシステムを、前作のアリスから使い倒していただいています(笑)。よろしくお願いいたします。

河野
補足しますと、清木さんは本作の「謎」の内容やゲーム全体の進行でも、本当にたくさんのアドバイスをくださった、間違いなく「メインスタッフのひとり」と言える方です。

竹内
前作(「アリスと謎とくらやみの物語」)に続き、「シャーロック・ホームズの追悼」もたいへんご好評いただいていて、嬉しいです。

清木
はい。SNS等での評価もとても良いですし、それに本作はゲームクリア後にアンケートをご用意しているのですが、その結果も素晴らしいですね。

河野
今回の座談会は、そのアンケートの内容を元にお話しできましたら幸いです。通常はスタッフしかみえない情報も公開いたしますので、そういった点でもお楽しみいただけるのではないでしょうか。

竹内
アンケートのひとつ目の項目は、「本作の満足度を教えてください」という質問です。前作の「アリスと謎とくらやみの物語」は、この満足度が99%を超えていて、本当に嬉しかったのですが、今作の現状でのデータはこのようになっています。

河野
今作も「満足度99%」を達成していますね!

清木
ご覧の通り、この質問には4段階の選択肢を用意しており、「とても面白かった!」と「面白かった」の2つ(図中の青と赤の範囲)を合算したものを「満足度」と呼んでいます。最後まで遊んでいただいた方からのアンケートですので、良く出やすいとはいえ、それでも99%はすごいですね!

河野
最高評価の「とても面白かった!」だけでも、87%の方にお選びいただけていて、この数字は前作「アリス」をほんの少し上回っています。「ホームズ」はアリスよりもボリュームが多く、難易度もやや高めになっていますから、「より謎解きが好きな方」に高くご評価いただけている印象です。

竹内
同感です。とはいえ「満足度99%」ですから、基本的にはどなたにでも、胸を張っておすすめできる作品になったのではないでしょうか。

河野
エスカローグシリーズは、「自宅でできる本格体験型謎解きゲーム」として作っていますから、「とにかく間口が広い作品である」ということは、制作中に常に意識していたことですね。

清木
謎解きイベントに参加したことがない方にも謎解き体験をお届けできるのは、パッケージの謎解きの利点ですよね。それを象徴するデータが、こちらです。

河野
これは、ずいぶん綺麗にわかれていますね!

竹内
こちらは、SCRAPさんの「リアル脱出ゲーム」のような、体験型の謎解きイベントの参加経験をお尋ねしたものですね。

清木
少し話が本作から離れますが、謎解きイベントに参加したことがある方が4分の3程度いらっしゃるのを見ると、謎解きイベントがずいぶん普及してきたことが分かりますね。

竹内
はい。ジャンルの黎明期から業界をみてきた私としては、この設問が成立していることに隔世の感があります(笑)。

清木
さて。赤とオレンジを「謎解きゲーム初心者」、緑と紫を「謎解きゲーム経験者」という風に考えると、ほぼちょうど真っ二つといえるのではないでしょうか。

竹内
これは本当にすごいデータで、謎解きは「経験を積むことでどんどん解けるようになる」ゲームなんです。つまり経験次第で、プレイヤーが心地よく感じる難易度が劇的に変化します。

河野
解き方のコツを知らなければずいぶん悩み込んでしまうような謎も、そのコツさえ知っていればひと目で解けてしまう、ということがいくらでも起こるジャンルですからね。

竹内
その中で、これだけ多様な方にプレイしていただきながら、どの層にも非常に高くご満足いただいている点が、本作のある種の凄みではないかと思います。

清木
このデータは見事に「本作の間口の広さ」を表していると思うのですが、どうしてこれを達成できたのか、河野さんからご説明いただけますか?

河野
エスカローグの基本的な方針は、「難易度以上に驚きがある謎を」です。私は、難易度と謎を解いたときの驚き、快感というのは、必ずしも比例するものではないと考えています。

竹内
河野さんは、高難易度を嫌う印象があります。

河野
そうですね。私が謎に求めているものは、あくまで驚きや快感です。そして、あまり難しくはない謎でも、優れたアイデアや作り込みがあれは充分にその「驚きや快感」をご体験いただけるはずだと考えています。そのハードルを超える謎をご用意できたことが、より多くの方にお楽しみいただける作品になった要因のひとつではないかと思います。

竹内
山のようなリテイクを出して(笑)。

河野
このゲームは本当に完成するのか? という恐怖と戦いながら、時間をかけて質を追及した成果ですね(笑)。

清木
さらに本作には、「難易度選択」という要素もありますよね。今作の制作のずいぶん早い段階から高難易度モードをご提案していたのですが、河野さんは「まあ、採用してもいいよ」というくらいの感触だったように思います(笑)。

河野
はい。やや不機嫌そうに、「まあ、価値はわかるからやってもいいよ」と(笑)。

竹内
河野さんが、それほど難易度選択に乗り気ではなかった理由はなんですか?

河野
各プレイヤーに合わせて「どの難易度が最適なのか?」を提示するのがとても難しい、というのがいちばんですね。いきなり難易度を選べと言われても困ってしまいますし、謎解きゲームでは「まずは簡単なモードを選び、次は高難易度を」といった遊び方もできません。

竹内
たしかに。ノーマルモードとハードモードがあったとしても、「自分にはどちらのモードが向いているのか?」ということを判断する要素がないと、どちらを選んでいいのかわかりませんよね。

河野
そこで本作では、前半は共通の難易度で遊んでいただき、その手応えを判断材料にして、後半に入ったときに難易度を選択していただく、という構造にしています。とはいえ、本来「難易度」というのは制作者側が苦労してバランスをとらなければならないポイントで、そこをプレイヤーに委ねるのは、少しだけ私の美学に反します。一方で、難易度を選択できた方が、より多くの方にお楽しみいただけるゲームになることもわかっていました。

清木
それで、やや不機嫌そうに「まあ、価値はわかるからやってもいいよ」と答えることになるんですね(笑)。

竹内
結果、「謎解き経験が豊富なプレイヤー向けの、高難易度の謎解きゲーム」としてもお楽しみいただける作品になりましたよね。

清木
「難しくなくても面白い謎」と、さらに「その面白い謎の難易度を上げることができる選択肢」、このふたつの要素が本作には、補完し合うように組み込まれていますね。

竹内
さらにそれに加えて、謎解きではない部分——ストーリーにもこだわっている、というのがエスカローグシリーズの特徴です。そのデータが、こちらです。

清木
謎の満足度が高いことに加えて、ストーリーに関しても「面白かった」を合算すると約95%であるのは、特徴的ですね。

河野
エスカローグシリーズは「謎解きと物語の完全な融合を目指す」というコンセプトですから、この評価は嬉しいです。一方で「面白かったが、文章が多かった」という評価が20%近くあるのは、本作を遊んでいただく上で、ぜひご注意いただきたい点です。

竹内
本作は「謎が存在する理由、その謎を解かなければならない理由」や「ホームズもののパスティーシュとしての、物語の面白さ」にもこだわっていますから、どうしても文章が長くなってしまうんですよね。

河野
はい。本作は謎解きゲームでありながら、プレイ中に、少なくとも短編小説1本ぶんほどの文章はお読みいただくことになります。ですからどうしても、「スピーディーに謎をたくさん解きたい!」という方のご期待には応えられない面がでてきてしまいます。

竹内
本業が小説家である河野さんの新作短編ですから、この点はむしろ本作の魅力でもあるんですけどね。

清木
はい。全体でみると、本作の「テキスト量の多さ」は高評価に繋がっている点だと思います。ただプレイする前に、それなりの量の文章を読むゲームだということをご理解いただけていると、より「プレイヤーと作品とのすれ違い」をなくせますよね。

河野
本作は制限時間なく、ご自宅で時間をかけてプレイしていただける作品です。この点は、多くの「制限時間がある体験型の謎解きゲーム」とはまったく違う性質を持っていますので、ぜひごゆっくりテキストまでお楽しみいただけましたら幸いです。

清木
ボードゲーム型の謎解きゲームである、という本作の特徴は、こちらのデータにも表れていますね。

河野
これは、本作のプレイ人数の割り合いですね。

竹内
個人的に本作を一番楽しく遊べる人数は3~5名だと思っていたので、プレイヤーの半数以上が1人や2人で遊んでいるという結果は意外でした。

河野
私も2人でのプレイにやや偏っているのが、少し意外だという印象はありますね。一方で、1人で楽しんでいただけた方も大勢いるのは、ありがたいです。本作はワトスンとの対話や、それなりに長いテキストで提示される物語など、「ひとりでどっぷりと体験する」という遊び方も、充分にお勧めできる内容になっています。

清木
私も記憶を消せるなら、ひとりでどっぷり遊びたいです(笑)。

竹内
COVID-19の影響で、仲の良い友人同士でボードゲーム会をやることが難しかったことも影響していそうですね。人数が少なくなると、その分だけ1人あたりが解かなければならない謎の量が増えるのでプレイ時間も延びてしまいがちです。

河野
本作の、最大の反省点はプレイ時間ですね。箱には「120~270分」と書かれているのですが、これは少し嘘でした。270分——つまり4時間30分でも、充分に長いゲームではあるのですが。

竹内
実体は、ゆっくり楽しむとクリアまで6時間以上かかるような例が散見されるゲームですね(笑)。

河野
そもそも本作を120分でクリアするのは、相当例外的に速い例ですね。「プレイ時間:180~360分」くらいの表記が適切だったように思います。

清木
ご自宅でプレイしていただける本作は、中断することも比較的容易ですから、ぜひご自由にプレイしていただければと思います。

竹内
プレイ人数に関しては、もう1点。「オンラインで繋ぎながら遠隔プレイは可能ですか?」というご質問を、何件かいただいています。

河野
非常に回答が難しいご質問ですよね。できなくはないのですが、制作時に私たちが想定していた遊びのスタイルとは少し違いますので、「多少の苦労があってもよろしければ……」という気持ちです。

清木
LINEのグループチャットを使って解いていきますので、遠隔プレイでも進行に置いて行かれるということはないのですが、手元にコンポーネントがないと完全な体験にはならないですよね。エスカローグはアナログとデジタルの融合も一つの魅力ですので。

竹内
はい。ですから参加場所ごとに商品を1セットずつ用意していただけると、それなりに快適に遊んでいただけるように思います。

清木
一方で、実際に集まって遊ばれるケースでは、LINEが見れないプレイヤーがいると進行に置いていかれがちです。少なくとも2人にひとりくらいの割合で、LINEが使えるスマートフォンをご用意いただけると遊びやすいかと思います。

以上で、座談会の前編はおしまいです。
この座談会の後編では、アンケートにご記載いただいた本作へのご感想をご紹介いたします。
プレイ時にご選択いただいた難易度も併記いたしますので、おおよそ「謎解きのご経験に合わせたご感想」をご理解いただけるかと思います。

「後編/いただいたご感想のこと」に続く →