スタッフ座談会

3.謎とはつまり愛のあるいじわる

竹内
ゲームの骨格――LINEを使った謎解きである、ということに加えて、「ボードゲームとして最適な謎解きを作る」「世界で売れる謎解きを作る」といったコンセプトが定まって、そこでいよいよパズ.rarさんに謎制作をお願いしたんですよね。

 

河野
と言っても、まだかなり手探りな状況ではありましたね。
とにかく面白い謎があれば、それに合わせて設定も物語も、ゲームの基礎となるシステムも作ろう、と考えていましたから。

 

竹内
この座談会では、パズ.rarさんにはぜひ、本作の謎のことを語っていただきたいのですが……

 

パズ.rar
なにを話しても、ネタバレになっちゃいそうですよね(笑)。

 

竹内
はい(笑)。
なので、パズ.rarさんがどんな考えを持った謎制作者なのか、ということをお伝えできればと思います。

 

河野
かなり広い質問になってしまいますが、パズ.rarさんが理想とする謎とはどんなものですか?

 

パズ.rar
僕にはチェック項目みたいなものが、4つあって。
まずは、「純度が高い謎」が好みです。

 

河野
純度。

 

パズ.rar
僕がそう呼んでいるだけなんですけどね(笑)。
謎というのは、「意味がわかった! 何をすればいいかわかったぞ!」の瞬間がいちばん楽しくて、その後は少し作業的になってしまいます。
その作業が少ない謎が、「純度が高い謎」だと考えています。

 

竹内
ひらめいてから答えに到達するまでの「やること」を、できるだけ削りたいんですね。

 

パズ.rar
もちろん、例外もあります。途中の作業が楽しい謎もあって、そういう風に作れていると問題ありません。
でも、基本的には「ひらめき」から答えが出るまでは、スピーディーに作りたいです。

 

河野
ESCALOGUEの謎も、その傾向が強いですよね。
ひらめいたあとの作業がある謎は、ほんの少しで。その作業も、非常に楽しめるようにできているように思います。

 

パズ.rar
そうなっていると、自信を持っています(笑)。
2番目は、「知識依存度が低い謎」であること。謎とは知識ではなく、知恵で解くものだ、と考えています。

 

河野
なにか特別な知識がないと解けない謎では、プレイヤーを選んでしまいますからね。

 

清木
それに、純粋に驚きを作るためには、難しい知識を要求しない方が良い、というのもあります。謎の答えを出すのに知らない知識が必要だと、なかなか素直には驚けないですよね。

 

パズ.rar
3番目は、まさにそれです。
「驚きが大きい謎であること」。

 

竹内
謎解きって、「ひらめき」と「驚き」をつくるものだ、とも言えますよね。

 

パズ.rar
ひらめきは、驚きとセットだと思います。
驚くようなことをひらめいたから、気持ちいいんです。

 

竹内
「驚き」を作るコツ、みたいなものはあるんですか?

 

パズ.rar
んー。
いくつかあると思いますが、ネタバレにならないように話すのが難しいですね(笑)。

 

河野
私の本業である小説で考えても、「驚かせ方」はいくつかの方法がありますね。
たとえば、いわゆる伏線です。

 

清木
後の展開で重要になる情報を、事前にこっそり仕込んでおく、という風なことですよね?

 

河野
はい。
突飛な展開をいきなり書くより、その展開のための情報を先に出しておいた方が、読者を驚かせやすいように思います。
人は想像していなかったことに、納得するから驚くんです。受け入れられないと驚かない。

 

パズ.rar
ああ。それは僕の、最後のチェック項目に繋がっていますね。
4番目は、「間違った考え方にいかないように謎が工夫されていること」です。

 

河野
間違った考え方、というのは?

 

パズ.rar
つまり一見正しいようでも、謎の答えに繋がらない発想には、きちんと謎側が「それは違うよ」と示してくれる、ということです。
間違った考え方だと、どこかで矛盾が生まれたり、必要な要素がなかったり。

 

竹内
それはとても大切なことですよね。
ただの難易度調整ではなくて。

 

パズ.rar
謎は解説を聞いたとき、「そんなのわからないよ」と思われてはいけないんです。きちんと、納得感がないといけません。
そのために、謎を誠実に作る努力が必要です。

 

河野
謎の純度が高くて、常識といえる範囲の知識で解けて、驚きがあり、誠実に作られた謎。
別々のことを言っているようで、実はみんな繋がっているのかもしれませんね。

 

パズ.rar
そうですね。
けっきょくみんな、根っこにはひとつの、共通する考えがあるのかもしれません。いかに気持ちの良い「気づき」を作るか、ということなので。
プレイヤーから「まさか」や「嘘でしょ」といった言葉が出るのが、いちばんの褒め言葉です。

 

河野
バズ.rarさんが理想とする謎は、かなり普遍的な印象ですが、別の考えを持った謎制作者もいるんでしょうか?

 

パズ.rar
もちろん様々だと思います。
謎はあくまで脱出ゲームにおける「運営が用意した障壁」にすぎない、と考えるのもひとつの正解ですし。

 

河野
なるほど。
謎自体の面白さではなく、たとえば「解くまでの時間を設定して、大勢のプレイヤーがちょうどそれくらいの時間で解ける謎がもっとも美しい」という考え方はありえる。

 

パズ.rar
脱出ゲーム全体からみると、大正解ですね。
実際私も、謎解き公演を作る上ではとても気にする要素ですし、とても悩まされる要素でもあります。

 

清木
パズ.rarさんの、謎に対する価値観はどうして生まれたんでしょう?
なにかきっかけになった謎はありますか?

 

パズ.rar
んー。ちょっと話がずれてしまうんですが。
小学生のとき、僕は最初の謎を作ったんです。

 

清木
それは早い。

 

パズ.rar
ある女の子に、ホワイトデーのお返しを渡したんですが……。

 

竹内
バレンタインにチョコレートをもらって、ホワイトデーにお返しをした。

 

パズ.rar
はい(笑)。
そのお返しに、4問のクイズを書いた紙を貼っていたんです。そしてその答えの1文字目を読むと、「すきです」になる、というものでした。

 

清木
今ではおなじみの、「縦読み」と呼ばれるものですね。
当時、その知識はあったんですか?

 

パズ.rar
いえ、ありませんでした。インターネットで縦読みの文化が広まるよりも、だいぶ前のことです。一応、自分で思いついて……。
その縦読みも、読み方の具体的な指示はなく、ただ解答欄の1文字目の位置にうっすらと〇をつけただけでした。

 

竹内
小学生には、なかなかの難問かもしれませんね(笑)。

 

パズ.rar
気づいてもらえないかもしれないけど、ぎりぎり気づいてくれたら嬉しい(笑)。そんなバランスのものを作ろうという意識は、あの頃からあったのかもしれません。

 

河野
気づいてもらえましたか?

 

パズ.rar
どうでしょうね。
返事をもらえないまま、その子は転校してしまいましたから。気づかなかったのか、気づいていたけれど返事をくれなかったのか、今では闇の中です。

 

竹内
なんてエモーショナルな(笑)。

 

パズ.rar
これが僕の、謎制作の原体験です。
あのとき、謎を解いてもらえるかな、というドキドキを始めて体験しました。

 

竹内
それが今回は、日本中の――できれば将来的には、世界中の謎解きファンに向けて、ドキドキするわけですね。

 

パズ.rar
はい。「すきです」と変わらないですね。
僕が愛情を込めて作った謎に、答えをもらえるのを、ドキドキしながら待っています。

 

河野
とても答えづらい質問だと思いますが、この作品の謎は、どんな風に作ったのでしょう?

 

パズ.rar
んー。
僕はゼロから謎を作るのはすごく苦手で、発想のとっかかりがなにか必要なんですね。今回はアリスがテーマなので、アリスに登場するものをベースに考え始めました。

 

河野
アリスは、モチーフが豊富ですからね。

 

パズ.rar
最初はこの作品で、「いちばん驚いて欲しい部分」を作って。あとはいかにアリスのモチーフを拾うか、ということを考えて作りました。
「答えが決まっていない謎解き」をしている感覚に近いかもしれない。

 

河野
それは、小説の書き方に似ているので、とてもよくわかります。
なんとなく、出題だけはあって。

 

パズ.rar
そうなんです。
これとこれとこれの要素を満たせ、という風な出題があって。

 

河野
その出題をみつけてしまえば、あとは最適なピースを探す感じなんですよね。絶対にぴったりはまるピースはあるはずだ、と信じて探し続けると、本当にみつかる。

 

パズ.rar
この企画でもそうでした。
まるで奇跡みたいに、要素がぱちぱちと組み合って。

 

河野
奇跡って、意外と起こるんですよね。
創作においては。

 

パズ.rar
はい。諦めずに頑張っていれば、必ず綺麗な答えがみつかる。
あとはそれに、「ちょっとしたいじわる」を加えるだけです。

 

河野
いじわる。

 

パズ.rar
謎を考えるというのは、「どんないじわるをしてやろうか」という作業です。どれだけ綺麗な答えがみつかっても、そのまま出してしまえば、ただの情報ですから。
いじわるが、情報を謎にするんです。

 

河野
実は以前、たけうちさんとお話していたときも、同じ「いじわる」という言葉を使っていたんですよね。

 

竹内
はい。
最近、謎を「いじわる」と表現することが多いです(笑)。

 

河野
そこが、少し不思議で。
たとえば「ノイズ」や「障害」などでも、同じような意味を表せると思うんです。でもあえて「いじわる」という言葉を使うことに、なにか本質がある気がする。

 

パズ.rar
……ああ。
そこに、感情があるからかな?

 

河野
たとえば、好きな子の気を惹きたい、みたいな。
からかって、困り顔をみたいし、最後には安心させたい。

 

パズ.rar
そうかもしれません。
ときどき、ものすごく難易度の高い謎を解き終わったときに、「解けたけど、あまりにも優しさを感じないな」と思うことがあります(笑)。
逆に「ちゃんと導いてくれてるな」と思える謎は、難しくても楽しいです。

 

河野
愛のあるいじわる。

 

パズ.rar
はい。良い謎とはつまり、愛のあるいじわるです。

 

河野
本当に、ホワイトデーの告白と同じですね。

 

パズ.rar
ぎりぎり伝わるバランスで、「すきです」と言いたいんです。

 

 

座談会の第3回はここまでです。
第4回は、それぞれのスタッフのこの企画への思いをお話しできればと思います。
また、第4回が、この座談会のとりあえずの最終回になります。
お読みいただけましたら幸いです。

 

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